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021: ゴリラ研究者から見たラグビー〜ハカとゴリラのドラミング(山極 壽一・京大前総長/特別インタビュー1)

更新日:2021年11月26日

"To The NEXT 100 Yrs" 次の100年へ。

《特別インタビュー》


人類学者、霊長類学者にして、ゴリラ研究の第一人者。2014年に京大総長の職についたあとも、ゴリラをはじめとする霊長類の立場から人間を観察し続けている。昨年2020年に総長を退任された山極先生に、集団スポーツとしてのラグビーの魅力について語っていただいた。


▼京都大学前総長・山極壽一さんの「ゴリラ研究者から見たラグビー」動画はこちら(約14分)




――山極先生のラグビー経験は


東京都立国立高校で2、3か月、ラグビーに触れた。足が速かったので、ウイングをやれ、と言われた。すぐにバスケットボールに移ってしまったが。



――サル学の大家から見て、15人という大きな集団同士が戦うラグビーというスポーツの特性は


人類は進化で脳が大きくなるにつれて、集団内の数を増やしてきた。15人という数は、長年私が研究するゴリラの社会から見ると、言葉を交わさずとも互いの身体が共鳴し、まとまって一つの生き物のように動ける集団として最大の人数だ。ラグビーはその特徴を生かした見事なスポーツだと思う。それ以上の人数になると、なかなか無条件に共鳴できない。

試合になると、言葉で解説する余裕はない。お互いの体の動きを合わせて相手防御網を突破する。ゴリラの動きに似ているね。



――若い時からスポーツをする意義は

情報化が進んだ現代でも、人は身体を触れ合わせなければ信頼関係を結べない。一緒にスポーツをし、喜怒哀楽を共にした仲間というのは、頭で、というより、身体で信頼できる。我々はまだ生物学的に、そんな感性の世界にいるんじゃないか。大学時代にスポーツをすることで身についた感覚が、仕事でもチームワークを培うことにつながる。

会社に入ったら、毎日顔を突きあわせる仲間と、言葉や情報だけではつながれない。身体を触れ合う共同作業や、感性でぶつかり合う、チームを組む、という経験をしてきたことが生きてくる。

アフリカでは、キャンプサイトを作って、現地の人たちと寝起きをともにしてゴリラやチンパンジーの調査をする。ゾウやバッファローに襲われたり、危険なこともいっぱいある。そういう時に、スポーツをして身についたものは生きたと思う。



――小さくて俊敏なチンパンジーが、大きくて強靱なゴリラに勝つ方法はあるか


 チンパンジーは徒党を組むのが得意。ゴリラと出会っても、自然界ではお互いに尊重し合い、避け合って戦うことはめったにないね。



――ニュージーランド代表オールブラックスが試合前に披露する「ハカ」と、ゴリラが胸を叩くドラミングの共通性について


 「構え」は重要で、ゴリラが胸を叩くドラミングは、歌舞伎の「見得」とそっくりだ。日常生活では、戦ってしまったらお互い傷つけ合う。ゴリラのドラミングは、相手に対する尊重が根底にあり、戦わずに引き分けましょうという提案だ。

スポーツは、実際に戦うけれども、戦った後は友として結ばれる。ルールにのっとって精一杯戦う、ということが演じられる。ニュージーランド先住民の戦う姿勢から来ているハカは、スポーツ精神に則って全力を出し切って戦う「構え」を示す。お互いのメンツを失わないようにしながら、集団と集団がぶつかり合う時に鼓舞する一つの「構え」だろう。精神としては、ゴリラのドラミングと似ていると思う。



山極壽一さんのプロフィール

1952年生まれ。ゴリラ研究で知られる。京大総長、日本学術会議会長、国際霊長類学会会長、国立大学協会長などを歴任。2021年4月から総合地球環境学研究所長。

同じく2021年、ゴリラ研究・保全を評価され、南方熊楠賞を受賞。


(2021年1月23日収録)

取材:奥村健一(H2/LO、読売新聞)山口泰典(H4/No.8、読売新聞)但馬晋二(H24/FL、読売テレビ)




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