2016年5月のKew Occasionalsとの対戦後のアフター・マッチ・ファンクションで、「次回は是非ロンドンで対戦しよう」との話で盛り上がったのがきっかけとなり、学士は創設90周年記念英国遠征を、2018年5月に21年ぶりの海外遠征として実施した。
遠征の模様について、ツアー・エクゼクティブ・マネージャー兼プレイヤーとして企画・調整全般を担当した稲葉 裕(京大 H2)のレポートを紹介する。
(学士会会報2018年11月号寄稿記事を再編集)
創設90周年を迎えた学士ラガー倶楽部
日本最古のラグビーチームである慶応義塾の学生が明治43年(1910年)に京都下鴨神社糺の森(注1)にて旧制第三高等学校の学生にラグビーを伝えたことにより、三高ラグビー部が日本で二番目のクラブとして誕生した。その三高ラグビー部卒業生が中心となって、1921年に東京帝国大学ラグビー部、1922年に京都帝国大学ラグビー部がそれぞれ創部された後、香山蕃氏(三高→東大、日本代表監督、日本ラグビーフットボール協会第三代会長)らにより両帝大ラグビー部のOBチームとして学士ラガー倶楽部は1928年に創設され、現在では旧七帝大ラグビー部のOBチームとして活動を行っている日本最古のクラブチームである。
ちなみに学士ラガー倶楽部のジャージは、1928年の創設以来、東大のスクールカラーであるライトブルー(淡青)、京大のダークブルー(濃青)と白(三高ラグビー部のジャージの色)の段柄である。
これまで学士ラガー倶楽部は、1981年豪州、85年英国、89年カナダ、93年ニュージーランド、97年英国への海外遠征を実施。その後、クラブ選手権における選手登録の厳格化、各大学若手のOB会離れ等もあり、ここ20年近くはシニアチーム(Over 40)を中心に活動を続けているが、オックスフォード大中心の英国Kew Occasionals RFCが2016年5月に来日した時に、京都・西京極陸上競技場にて京大・阪大若手OB中心に急遽編成された学士ラガー倶楽部(若手)と対戦、26-40と惜敗に終わったものの、低いタックルと早い球出しからの連続攻撃で体格に勝る相手を苦しめる好ゲームとなった。
(Kew Occasionals RFCは早稲田大OB戦、神戸製鋼OB戦にも勝利し、3連勝で日本遠征を終えた)
試合後京都市内の英国風パブにて貸切で行われたアフター・マッチ・ファンクションでも両チームは大いに盛り上がり、「次回はロンドンで再戦しよう」との話が急浮上、学士ラガー倶楽部としては実に21年ぶりとなる本格的な海外遠征を実施することとなった。
9日間にわたる英国遠征が、Reg Clark氏の協力で実現
2018年、創設90周年を迎えた学士ラガー倶楽部は、2018年4月28日から5月6日まで9日間にわたる英国遠征を挙行した。
今回の遠征の実現にあたっては、オックスフォード大ブルー(注2)でその後神戸製鋼ラグビー部にて助っ人外国人選手の先駆けとして1980年代前半に活躍したReg Clark氏に現地でのマッチメイクを含め多大なる協力をいただいた。この場を借りて厚く御礼を申し上げたい。同氏のサポートなしには本遠征は実現できなかった。同氏は、今回の遠征にも参加した、神戸製鋼ラグビー部でのチームメイト水田時彦(京大 S52)から学士ラガー倶楽部の歴史と成り立ちを聞き、感銘をうけたという。
英国帰国後同氏は、それまで地域、企業等を母体とするラグビークラブしか存在しなかった英国において大学時代のライバル校のOBが卒業後同じチームでともにプレイし、練習は一切せず試合と飲み会のときにのみ集まるという、今までにないコンセプトのSocial Clubとして、オックスブリッジOBによるKew Occasionals RFCを1988年に設立した。
2016年にKew Occasionals RFCを率いて来日した際や今回の英国遠征中にも「ラグビーの交流だけであれば慶應、早稲田、明治、同志社といった強豪私立大学OBとだけ試合をすればよいが、オックスブリッジのOBとしては自分たちと同じように文武両道を求められる環境でラグビーと学問の両立にチャレンジしている東大、京大をはじめとする旧帝大OBとの対戦を通じて育まれた友情や付き合いは、その後の人生においてどれだけ貴重なものであったかを自分は十分認識している。それを若い世代に引き継ぐことが自分の使命である」との趣旨のコメントを繰り返ししていただいた。
90年前にはるか極東の地でオックスブリッジ双方のブルーをジャージの色に取り入れ、常に文武両道を目標としてきたものからすると、涙なしには聞くことができない、有難い言葉であった。
英国遠征戦績
〈試合結果〉
第1戦(4月29日)
@Westcombe Park RFC, London
学士ラガー倶楽部(シニア) 5‐41 Sevenoaks RFC Veterans
学士ラガー倶楽部(若手) 12-36 Sevenoaks RFC
第2戦(5月2日)
@Oxford Univ. RFC Iffley Road Ground,Oxford
学士ラガー倶楽部(シニア) 10-34 Oxfordshire Rugby Football Union Veterans XV
学士ラガー倶楽部(若手) 10-111 Oxford Univ. R.F.C. 2nd XV "Gray Hounds"
第3戦(5月4日)
@Rosslyn Park FC, London
学士ラガー倶楽部(シニア) 38-46 Kew Occasionals RFC Veterans
学士ラガー倶楽部(若手) 7-120 Kew Occasionals RFC
【参加メンバー】(ラグビー部卒部年次)
佐藤浩之助(団長、東大S43) | 稲葉裕(遠征幹事、京大H2) |
---|---|
新原拓太(シニアチーム主将、東大H6) | 田中岳(若手チーム主将、京大H27) |
木内幹雄(名大S35) | 田代芳孝(京大S48) |
水田和彦(京大S50) | 水田時彦(京大S52) |
夏山真也(京大S54) | 内田淳二(京大S54) |
白石良多(京大S54) | 田中康夫(阪大S57) |
赤坂勉(東大S59) | 孔泰寛(阪大S59) |
嶋宮利明(明大S59) | 渥美泰典(東大S60) |
末吉一雄(京大S60) | 末川裕之(京大S60) |
大藤謙一(京大S62) | 宮尾泰助(京大S62) |
森井基夫(京大S62) | 野崎哲也(東大H1) |
田村光孝(東大H2) | 坂口誠(京大H2) |
澤秀樹(京大H2) | 杉山泰憲(東大H4) |
朴英智(日大H5) | 斎藤隆(北大H6) |
樺井仁司(京大H6) | 野田幸嗣(京大H10) |
野々村敦(京大H11) | 阿部哲也(京大H12) |
松江大吾(京大H20) | 窪田峻(京大H21) |
岡本大和(京大H23) | 中越邁(京大H23) |
米今勇輝(京大H23) | 宮脇大(阪大H23) |
但馬晋二(京大H24) | 稲垣貴彦(京大H25) |
真嶋雄二郎(京大H26) | 井上悠太(京大H27) |
三島康二(京大H27) | 赤塚駿一(京大H27) |
各務康貴(大分大H28) | 志村大智(京大H29) |
佐藤浩之助団長(東大S43)以下、選手45名、同行応援者9名の総勢54名が参加、若手、シニア各3試合ずつの計6試合を行い、戦績は6戦全敗であったものの、Kew Occasionals RFCとの4回目(第1回:1990年9月@神戸、第2回:1997年5月@ロンドン、第3回:2016年5月@西京極)となる対戦に加え、若手は我々の「ダークブルー」のルーツ校であるオックスフォード大学2nd XV(二軍)と初めて対戦するなど、本場のラグビーを堪能するとともに、由緒あるクラブハウスでのアフター・マッチ・ファンクション、「ラグビー発祥の地」ラグビー校やイングランド代表の本拠地である「聖地」トゥイッケナム訪問等により母国のラグビー文化そのものに触れることができたことは参加者全員にとって一生の思い出となる経験であった。
今回の遠征を契機に、関東、関西、中京地区での学士ラガー倶楽部の活動が、より多くの各大学若手OBの参画を得て活性化し、95周年、100周年の海外遠征が多くの若手参加メンバーにより実施されることを強く祈念する。
H2年(1990年)卒 稲葉 裕
(注1)日本人同士により初めてラグビーが行われた地として、下鴨神社糺の森に「ラグビー第一蹴の地」の石碑が三高・京大ラグビー部OBにより1969年に建立、2017年、この石碑の横に雑太社が再興された。この神社には、神魂命(かんたまのみこと)が祀られており、蹴鞠やサッカーの神様である大伊乃伎命(おほいのきのみこと)という神様の先祖にあたり、また「魂」は、「球」に通ずるとして信仰されている。同年5月には日本で開催されるRugby World Cup 2019の組み合わせ抽選会が京都迎賓館で行われ、世界各国の代表が「第一蹴の地」を視察、蹴鞠保存会による蹴鞠が披露された。同年11月には「世界遺産下鴨神社ラグビー第一蹴の地顕彰会」が発足。
(注2)オックスフォード大-ケンブリッジ大のラグビー、ボート、クリケット等の対抗戦出場者に贈られる称号、両大学のスクールカラーがダークブルーとライトブルーであることからブルーと呼ばれる。なお、東大、京大のスクールカラーは、両大学にあやかり、東大がライトブルー(淡青)、京大がダークブルー(濃青)。
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